坂本龍一『async』話題のアルバム収録作品6選

東京都心や電車の中、誰もがスマートフォンを眺め、イヤフォンで自分の世界に浸る。もはや見慣れた光景です。私たちの周りには素晴らしい「自然の音」が溢れているにもかかわらず、それらを全て閉ざしてしまうのは、もったいないことではないでしょうか?

いわゆる「雑音」は、私たちが勝手にいらないと決め付けてしまった音です。そんな音たちにもう一度命を与えてくれるのが、坂本龍一氏(以下敬称略)のアルバム『async』です。本記事では同アルバムについて紹介します。

 坂本龍一の新アルバム『async』とは?

2017年3月29日に発売が開始された、坂本龍一のアルバム『async』。坂本龍一にとって実に8年ぶりとなるこのアルバムは、同氏が「あまりにも好きすぎて、誰にも聴かせたくない」と漏らしたことでも知られています。61分、全14曲。同年4月4日からは、東京都のワタリウム美術館で関連企画展も開催されています。

アルバム名である『async』は、「非同期」を意味する”asynchronization”の略です。「同期するのは人間も含めた自然の本能」であるからこそ、「あえてそこに逆らう非同期的な音楽を作りたい」(GQ JAPAN, 2017.5.11)。そんな坂本龍一の思いが込められています。

8カ月の月日をかけて坂本龍一が紡いだ全14曲を構成するのは、あらゆる「音」。雨音、無機質で機械的な音、「ノイズ」として通常削除されてしまう楽器特有の音、会話の音…。もちろん西洋楽器であるピアノやパイプオルガンなど、一般人である私たちの想像するいわゆる「楽器」の音も構成員です。

「音楽って、なんかうるさくて」(Wired 日本版Vol. 28)。そう呟いた坂本龍一の心中に思いを馳せながら、耳を澄ませてみてください。前衛的だけど、どこか懐かしい。そんな響きをもつ坂本龍一の作品たちのいくつかを紹介します。

 

1.「andata」(坂本龍一『async』より)

坂本龍一の新アルバム『async』のの1曲目となる「andata」。ピアノのソロから静かに始まり、徐々に厚みを増しながら展開していくメランコリックなメロディーが印象的な冒頭曲です。

最初のクライマックスは、ピアノソロからパイプオルガンへの移行していく瞬間にあります。「何の音だろう?」という疑問と、そして不安に襲われます。メロディの裏に静かに入り込んでくる「サー」という音は、私たちが(少なくとも私は)普段「雑音」と捉えている種の「音」です。だからこそ、それが完成されたクリアな音楽に入り込んでくることへの違和感、不安を感じます。

物語が進むほどに、そのあらゆる「音」の種類は増えていきます。どこか遠くで鳴っているような、とても深い場所から響いてくるような、どこか悍ましく、それでいて心が安らぐ響きを教えてくれます。中盤のクライマックスではその「あらゆる音」たちが、主旋律を超えてしまう瞬間さえあります。

 

2.「ZURE」(坂本龍一『async』より)

『async』3曲目の「ZURE」は、機械的な出だしが特徴的です。シンセサイザーのような音色のハーモニーがずっしりと響き、その上で高音のモールス信号のような音色が淡々と鳴らされます。

この、低音のハーモニーと高音の「信号」の掛け合いが5分間強の曲のベースとなります。リズムはゆっくりと一定ですが、時折その隙間に「不安」を生じさせる異質な「音」が割り込みます。電波を受信しないテレビの砂嵐のような、電車が通りすぎるときの「ドンッ」という圧力のような、違和感のある響きを聴き取ります。そしてその不安は解決されぬまま、終わりを迎えます。

 

3.「Walker」(坂本龍一『async』より)

雨でぬかるんだ砂利を掘っているのか、それともキッチンで何か水を使って作業をしているのか。想像力をかきたてられる、瑞々しい「音」で『async』5曲目の「Walker」は始まります。

「Walker」では、時折響くピアノのような音のハーモニーを除いては、いわゆる「メロディ」なるものを見つけることができません。その代わりに、1人の人間を見つけることができます。歩き、働き、考える。そんな人間の営みを「見る」ことができます。

 

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