私たちの生活の中には、様々な文字があふれています。文字は情報や気持ちを伝えるツールとして、欠かせないものです。普段は何気なく目にしている文字ですが、よく見ると書体、色、太さなどそれぞれに個性があります。
どう書けばいちばん伝わるのか、どんな文字がテーマにあっているかなど、文字をデザインすることでより伝わるよう工夫する。それがデザインとしての文字「タイポグラフィ」です。今回はデザイン性に優れた様々なタイポグラフィをご紹介しながら、デザインとしての文字の魅力を紐解いていきます。
タイポグラフィとは
タイポグラフィとは本来、活版印刷術のことを指していました。木版による印刷から文字を組み替えることのできる活版印刷に変わり、印刷という技術は飛躍的に進化しました。現在では様々な印刷技術が発達するとともに、紙以外でもパソコンやスマホで文字を読むということも増えてきました。それに伴い「タイポグラフィ」という言葉も、文字を読みやすく美しく見せるためのデザインの総称として使われることが多くなっています。
タイポグラフィには読みやすくするための基本的なルールはありますが、厳格な定義などはありません。フォントや色、サイズなどを変えて、読みやすさを重視したようなものから、デザイン性の高いマークのようなロゴデザインまで、様々なものがあります。ただしあくまでも絵ではなく文字であり、読むことができなければ意味がありません。読むことを前提とし、文字ならではの魅力を生かしながらデザイン性を高めるというのが、タイポグラフィの基本です。
参考:
三省堂 大辞林
タイポグラフィとは?基本ルールと作り方 37の要点
企業タイポグラフィのパイオニア 資生堂書体
資生堂のポスターやカタログを見ると、独特のタイポグラフィをよく見かけます。それが100年近く手描きで継承されている資生堂書体です。1916年に株式会社資生堂の初代社長である福原信三氏が、宣伝やデザインを担当する意匠部を設立。自社の商品を表すような美しくエレガントな独自のタイポグラフィを作ろうと、意匠部の矢部季氏や画家の小村雪岱氏を中心に、まず社名の和文ロゴが生まれました。
その後ひらがなやカタカナなどが作られ、資生堂書体として様々な広告やパッケージなどに使用されるようになります。これらの文字は教本化され、資生堂に入社した新人デザイナーは、1年かけてこの書体を体得します。また欧文書体は、書体デザインの巨匠であるアドリアン・フルティガー氏に依頼しフォント化。和文同様エレガントで美しい書体は、タイポグラフィとして表現の幅をさらに広げました。
現在では文字を見ただけで資生堂だとわかるほど、一般的にも浸透している資生堂書体。企業名などをロゴマークとしてデザインする会社は多くありますが、企業のメッセージを伝えるオリジナル書体を持っている会社は、なかなかありません。
100年近く前から企業におけるタイポグラフィの重要さに目をつけ、それを手描きで伝えてきた資生堂は、日本におけるタイポグラフィのパイオニアと言えるかもしれません。お手本があるとはいえ、デザイナーが手描きする資生堂書体には個性があり、伝統を受け継ぎながらも今なお進化を続けているのも魅力です。
参考:資生堂センデン部 HP
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